ジャパンモビリティショーで日本初公開された、AMG初のEVスポーツカー「CONCEPT AMG GT XX」。ブランドの新時代を告げるこの一台には、どのような哲学と情熱が注がれているのか。日本での初お披露目に合わせて来日したメルセデスAMG社 CEOのミヒャエル・シーベに、デザイン、技術、そしてAMGが描く未来のビジョンについて訊いた。

photos : Kunihisa Kobayashi
words : Kazuhiro Nanyo

世界記録を樹立したコンセプトモデル

東京ビッグサイトで2年に一度行われる、ジャパンモビリティショー(以下JMS)。去る10月末から開催された2025年のJMSはMercedes-AMGにとって、新しい時代の幕開けを告げるものとなった。本国ドイツで先駆けて発表され大きな話題を集めた、AMG初のEVスポーツカー「CONCEPT AMG GT XX」が東京にその姿を見せたのである。

AMG GT XXは単なるデザインスタディではない。イタリアのナルド・テストコースにおいて24時間でEVが到達した走行距離として世界最長となる驚愕の5,479㎞を打ち立てたのみならず(従来の世界記録から1,518kmも伸長)、さらには7.5日間の連続走行で地球一周分に値する40,075㎞を走破した、れっきとしたパフォーマンス・コンセプトだ。フロントとリアに計3基のアキシャル・フラックス・モーター(従来の電動モーターと比較して、はるかにコンパクトで軽量ながら、高出力を誇る)を搭載し、システム最高出力は1,000kW(1,360PS)超 / 最高速360km/h超に達する。

しかも高いエネルギー密度をもつバッテリーは、インテリジェントに直接冷却を行える円筒型セルで構成されており、持続的なハイパフォーマンスに加えて、約5分間で東京-京都間に匹敵する400㎞走行*が可能なクイックチャージ性能も備えている。つまり、AMG史上初のEVスポーツカーのコンセプトモデルであるこのクルマは、既存のEVモデルでは到底考えられもしなかった次元のパフォーマンス、利便性、航続距離を兼ね備えているのである。

* 航続距離の数値はWLTP基準に基づくデジタルシミュレーションによる暫定値です。

伝統と革新を融合した“AMGらしさ”

そもそも、「EVスポーツカー」という革新的であり同時に未知のジャンルに対して、AMGという伝統のパフォーマンス・ブランドは、どのようなアプローチをとったのか? JMSに合わせて来日した、Mercedes-AMGのCEOでありMercedes-Benzのトップエンドモデル部門の責任者でもあるミヒャエル・シーベに質問を投げかけると、次のように切り出した。

「私たちがもっとも注力したのは、“AMGらしさ”をしっかりと形にすることでした。そして結果的にAMG GT XXは、ブランドが象徴する伝統と革新を余すことなく見事に融合しています。例えば、ドア付近が絞られリア側に向かってボリュームが出る“コークボトルシェイプ”と呼ばれる形状が、クラシックであると同時にスポーティな印象をも生み出しています。さらにカレラ・パナメリカーナ・メヒコ(1950年代にメキシコで開催された公道自動車レース)で優勝を飾った『300SLR』に想を得たフロントグリルもクラシックな意匠ですが、フラットで低い車高や滑らかで空力的なフォルム、そして私たちが“ワイドショルダー”と呼ぶ、力強く張り出したフェンダーなどは現代性を象徴しています」

確かにAMG GT XXのエクステリアの各所にはスポーツカーとして象徴的なデザインやディテールが散りばめられているが、当然のことながらAMGの新チャプターを迎えるクルマとしての新たな試みも忘れていない。シーべは、完成したAMG GT XXを実際に目にした時の印象について次のように振り返る。

「私が即座に気に入ったのは、静止した状態でも、そのボディに秘められたスピードが体現されているところです。ただ単に引き締まって見えるのではなく、どの角度からも圧倒的なスピードを感じさせる。これこそがスポーツカーをスポーツカーたらしめる要素だと思います。さらに1960〜70年代に次世代技術の開発を目的として製作されたコンセプトカー『C111』へのオマージュも、ボンネットやフロントウインドシールドまわりの造形に見ることができます。スポーツカー好きであれば、このクルマを見て『これはAMGだ!』と一目瞭然に理解できる、そんなクルマに仕上がっています」

AMGの機能美を体現

まさに機能美を極限まで追求することで完成したエクステリアだが、同様のシビアなアプローチはインテリアデザインにおいても踏襲されている、とシーベは言い切る。

「たとえば現在のCLE 53やC 63、AMG GTにも採用されている“AMGパフォーマンスシート”。これは通常のシートより薄く、軽く、明確なライン構成で無駄が一切ありません。また、ディスプレイの配置にもこだわっています。センターのタッチスクリーンをドライバーの方に傾けているのは、スポーツカーらしいドライビングポジションを保ったまま、走行中に無理なく車高やサスペンションの設定、ドライブモードを直観的に操作できるようにしたためです。この人間中心の設計も、私が気に入っているポイントです」

また、今回初めて試みた機構として、キャビン背面のLEDパネルで後続車などにメッセージを表示することができる“MBUX フルイドライトパネル”を挙げる。

「これはAMG GT XXに搭載した実験的な装備のひとつです。これらの新しい挑戦は、すべて未来への布石となっているのです」

EVに宿るV8の魂

しかし当然のことながら、他を凌駕するパフォーマンスとドライブフィールを何よりも求められるのがAMG。この点についてもシーべは確固たる自信を覗かせる。

「デザインと同じぐらい、私がAMG GT XXでとりわけ誇りに思うテクノロジーは、ドライブトレインです。その電動駆動システムは、どの競合ブランドもいまだ実現していないレベルの能力を備えています。イタリアのナルドでトライアル走行を極秘で行った際、私たちは24時間走行の世界記録のみならず、わずか8日間足らずで地球1周に相当する距離を走破しました。最終日の深夜1時にフィニッシュラインを越えたときは本当に感動的でしたね。その後、ニュースを聞きつけた他社のエンジニアから『一体どうやって成し遂げたんだ? 本当にすごい!』と、電話がかかってきたんです。ライバルブランドが称賛してくれる。さらに嬉しい瞬間でした」

パフォーマンスが人の心を動かし、感動の連鎖を呼び起こす──。これこそがAMGのコアに他ならない。EVをAMGブランドからリリースすること自体が、シーベにもAMGにも未知の領域への挑戦だった訳だが、その点についてどう感じていたのだろうか?

「挑戦であり、同時に大きなチャンスと捉えていました。EVは構造上の利点が多い。前輪と後輪、それぞれ個別に制御できるトルクベクタリング、モーターの回転数ゼロから最大トルクを発生させる瞬発力、シームレスな加速。これらは内燃機関では得られない魅力です。ただしAMGが手がけるからには、単に加速の速いEV以上のもの、つまりサーキットに持ち込めるハイパフォーマンスカーでなければなりません。そのための技術開発こそが、非常にチャレンジングでした」

「高負荷対応する新しいブレーキシステム、安定したパフォーマンスを維持する冷却構造、そして何より感情を伝えるドライビングフィール。なぜなら私たちの顧客とは、V8エンジンの鼓動、サウンド、振動に魅了されてきた方々であり、そのDNAを電動化時代にも受け継ぐことが、私たちの使命ですから。例えば、AMG GT XXでは、加速時にV8のようなシフトフィールと音響変化を再現しています。実際、アメリカのディーラー関係者に試乗してもらったところ、『本当に電気で動いているのか?』とボンネットを開けて確認した方がいましたよ(笑)。それほど自然でエモーショナルなんです」

内燃機関と電動化、双方の世界の最高のものを融合させること。そしてV8で培った技術と情熱を電動化の時代に巧みに合わせ込んでいくこと。このふたつこそが今のAMGのあり方であると、シーベは強調する。

「例えば充電性能ひとつとっても、コーヒーブレイクではなくエスプレッソの小さなショット1杯を一気に飲み干す時間で完了する充電を目指しています。つまり、わずかな充電時間で再び走り出せる、それがハイパフォーマンスEVです。さらに、私たちはバッテリーセルをひとつひとつ液体で冷却し、つねに最適温度を保つ、直接冷却式の円筒型セルを採用した画期的な高電圧バッテリーを採用しています。結果、どんなに走ってもオーバーヒートすることなく、最高のパフォーマンスを維持できる。これまでのEVにない強みです」

特別な体験を届ける

ここまで話を聞いて大きく興味をそそられるのは、AMGブランドのトップエンドに位置するAMG GT XXとその市販バージョンの開発経験が、今後、メルセデス・ベンツの他のモデルにどのように生かされていくか? ということだ。

「もちろん、今回の開発プロジェクトで得られた知見はメルセデス・ベンツ全社に波及します。今回のプロジェクトはAMGだけでなく、メルセデス・ベンツ本社のエンジニアやF1エンジンの開発チームとも協力して進めました。まさしく“テックプログラム”と呼ぶにふさわしく、充電技術、バッテリー制御、素材開発のすべてが一体型のプロジェクトだったのです」

最後に、今後、AMG GT XXの市販モデルのハンドルを握る機会を得る人に向けてメッセージを、とリクエストを出すと次のような答えが返ってきた。

「このクルマのキーを手にした方に伝えたいのは、まずは変に身構えたりせず、アクセルを踏んで走り出してみて下さい、ということ。きっと驚くと思います。それほどまでに特別な体験を届ける自信があります。静けさの中にスピードを感じながら、風景と一体になって走る──。それがこのクルマとドライバーにふさわしい瞬間でしょう。電動でも内燃でも最高のエモーションを生むクルマを造り続ける。これこそがAMGが掲げる不変の哲学なのです」

AMGの新時代はまだその幕を開けたばかり。伝統と革新の融合はさらなる高みを目指して今後も受け継がれていくのである。

ABOUT CAR

CONCEPT AMG GT XX

Mercedes-AMGが開発したハイパフォーマンスEVコンセプトカー。3基のアキシャル・フラックス・モーターを採用した革新的な駆動コンセプトにより、 最高出力1,000kW(1,360PS)超を発揮する。直接冷却式円筒型セルを採用した画期的な高電圧バッテリーにより、高い持続性能と急速充電性能を両立する。
CONCEPT AMG GT XX