これまでの序列を覆しかねない「世紀のレギュレーション変更」を経て開幕した2026年のF1世界選手権。新規定にいち早く適合したMercedes-AMG PETRONAS F1は開幕戦のオーストラリアGP、第2戦の中国GPで2戦連続の1-2フィニッシュを飾った。そして、次なる舞台は、歴代トップドライバーたちが「世界最高のサーキットのひとつ」として賛辞を惜しまない伝説の鈴鹿サーキットだ。春の鈴鹿を前にチャンピオン奪還に向けて好スタートを切ったMercedes-AMG PETRONAS F1の走りに注目だ。

words : Go Kato


2026年は、単なる“新シーズン”ではない

パワーユニットの電動化比率を50%へと引き上げたのみならず、100%持続可能燃料を採用し、マシンコンセプトそのものも大幅刷新──。文字通り、F1は電動化と持続可能性を見据えた新時代へと大きく舵を切った。その技術革新を象徴するのが、Mercedes-AMG PETRONAS F1のニューマシン「W17 E PERFORMANCE」だ。バルセロナで行われたシェイクダウンでは、3日間でサーキットを500ラップ以上周回、全10チームのトップを飾り、抜群の安定性を見せつけた。

車体をひと目見ただけでひしひしと伝わる進化の証。よりコンパクトで引き締まったプロポーション、伝統のメルセデス・シルバーから現代のF1チームを象徴するディープブラックへとグラデーションするボディには、鮮やかなPETRONASグリーンのラインが鋭く走る。エンジンカバーにはスリーポインテッドスター、そしてサイドポッドにはAMG特有の菱形モチーフがデザインされているのも見逃せない。

Mercedes-AMG PETRONAS F1の代表でありCEOも務めるトト・ヴォルフは2026シーズンのマシンローンチイベントに際して、次のように語っている。

「今シーズンのマシンはよりコンパクトで俊敏です。外観からして大きく異なることは一目瞭然でしょう。本当にエキサイティングなシーズンになると確信しています」

「レギュレーションが大きく変わるときこそ、組織の力が問われます。そしてわれわれはその変更に最大限対応できるよう並々ならぬ準備をこれまで積み重ねてきたのです」

新時代F1の幕開けとなる開幕戦オーストラリアGPにて見事ポール・トゥ・ウィンを決めたジョージ・ラッセル。いまやチームの精神的支柱となったこのイギリス人ドライバーは、開幕前に新シーズンの抱負について訊かれるとこう答えた。

「コンパクトになったマシンは、これまで以上に機敏な走りで、コーナーでの反応も鋭い。ドライブしていて純粋に楽しいです。でも今シーズンはそれだけでは足りない。新しいパワーユニットは感覚がまったく違う。電動出力が大きくなったことで、エネルギーをどこで、どう使うかが勝敗を左右します。ドライバーとして、もうワンランク以上の精度が求められていると思います」

そしてMercedes-AMG PETRONAS F1で2年目を迎えたキミ・アントネッリ。中国GPでは最年少ポールポジションを獲得し、決勝レースでも見事なマネージメントで自身初優勝を飾った。成長著しい若手も、期待をもって2026年シーズンを迎えた。

「最初にフルパワーを使った瞬間、明らかにこれまでとは違う“キック”を感じました。最初のフルスロットルで、その速さをはっきりと実感できたのです……2025シーズンは自分にとって大きな学びでした。その経験があるからこそ、2026年はより良い準備ができていると感じています。学ぶべきことは多いですが、このマシンとともに新シーズンを戦うのがとても楽しみです」


パワーユニットは完全なる新設計

このW17を生み出したのは、英国のブラックリーにあるチームファクトリー。ここでシャシーが設計・開発される一方、パワーユニットは同じく英国のブリックスワースに拠点を置くHPP(ハイ・パフォーマンス・パワートレインズ)が担当する。

2026シーズン最大の変革は、パワーユニット。これまでのF1は、出力の大半を内燃エンジンが担い、電動モーターは補助的な役割にとどまっていた。しかし今シーズンからは、内燃エンジンと電動モーターの出力比率が50:50へと刷新されている。つまり、電動出力が主役級へと引き上げられたことが、今季最大の変化なのである。

その中心にあるのがMGU-K(Motor Generator Unit - Kinetic)。減速時の運動エネルギーを回収し、加速時に再利用するモーター兼発電機である。その最大出力は120kWから350kWへと拡大されている。350kWは約476馬力に相当し、電気だけで高性能スポーツカーに匹敵する出力を発揮することになる。一方、これまでターボと連動していたMGU-H(排気熱エネルギー回生装置)は廃止され、よりシンプルで電動主体の構成となっている。

HPPのマネジングディレクターを務めるハイウェル・トーマスは、2026年型パワーユニットを次のように表現する。

「これは完全なる新設計です。ボルト一本たりとも(昨シーズンから)持ち越していません。電動と内燃はほぼ半々で、コース上でのエネルギーの使い方は、これまでと根本的に異なります」

そして燃料もまた、F1の新しいチャプターを象徴する。使用されるのは100%カーボンニュートラル燃料。再生可能原料や廃棄物、非食用バイオマスを用いて開発された。パフォーマンスを犠牲にすることなく持続可能性を追求するため、F1技術の重要な一角をなす燃料においても、新時代の技術が試されているのである。


DRS廃止後の新アプローチ「アクティブ・エアロ」

直線区間でリアウイングの一部を開放し、空気抵抗を減らして最高速を高めることで、オーバーテイクを促進する装置として昨シーズンまで設定されていたDRS(ドラッグ・リダクション・システム)。この廃止に伴い、2026年に新たに導入されたのが、より高度な機能をもつアクティブ・エアロダイナミクスだ。マシンの前後に設置されたウイングが、「ストレート」と「コーナー」のモードを切り替え、直線では空気抵抗を減らしてスピードを引き出し、コーナーではダウンフォースを確保して安定性を保つよう設計されている。つまり、空気の流れそのものを能動的にコントロールするアプローチへと進化したのである。

さらにオーバーテイク・モードとブースト・ボタンが加わり、前を走るライバルから1秒以内で追加エネルギーの使用が可能となった。つまり、ドライバーは追加エネルギーをどこで使うかの的確な判断が求められ、速さだけでなく、エネルギーのマネジメント能力が勝敗を左右する時代を迎えたのである。


極限の技術はロードカーへ

F1は、自動車開発における究極のラボラトリーである。

回生エネルギーの効率的な回収、バッテリーの熱管理、高出力を安定して制御するソフトウェア、そして軽量化の徹底──。これらはメルセデス・ベンツのハイブリッドモデルやEV開発と方向性を同一にする最重要テクノロジーだ。そして、短時間で大量の電力を扱う制御技術、冷却と信頼性の両立、エネルギーマネジメントの最適化など、その知見は、市販車開発のエンジニアリングプロセスや思想にも反映されていく。

トト・ヴォルフは語る。

「我々は単にレースをしているのではありません。ここで挑戦しているのは、電動化やエネルギーマネジメントといった、モビリティの未来につながるテーマなのです」

F1は極限の環境で最新のテクノロジーを検証する舞台でもある。電動出力の制御、エネルギー効率の最適化、持続可能燃料の活用は、現代の自動車開発においても非常に重要な領域だ。

その意味で、メルセデスのF1活動はブランド全体の技術思想と無関係ではない。サーキットで培われる知見や経験は、長期的な視点でブランドの技術力を支える基盤となっていくのである。


そして鈴鹿へ

序盤の2ラウンド、そして第3戦となる鈴鹿を経て、2026シーズンのバトルは文字通りフルスロットルで本格化する。ヴォルフは、そのすでに動き出したシーズンを見据えて次のように語る。

「冬のシーズンオフも、ファクトリーでは休みなく作業が続き、ドライバーも多くの時間をシミュレーターで過ごしてきました。このマシンは速く、そして運転していて本当にエキサイティングです。優勝やチャンピオンシップを争えるかどうかは今後の展開にかかっていますが、そのポテンシャルをラウンドごとに一つひとつ確認していきます」

ラッセルも、新時代マシンへの手応えを語る。

「チームはこのマシンのために長い時間をかけて準備してきました。実際にドライビングを重ねる過程で理解も深まっています。新しいパワーユニットはこれまでと感覚が違う。ブーストを使えば、本当に“飛ぶ”ように加速する。その特性をどう活かすかが重要になるでしょう」

そしてアントネッリは、昨年の経験を踏まえた現在地を語る。

「このマシンは運転していて本当に楽しいし、まだ理解を深められる部分も多い。シーズンを通して成長していきたいと思っています」

3月下旬、舞台は伝説の鈴鹿サーキットへ。電動化50%という新時代は、すでに走り始めている。その一角を占めるW17が、次にどんな一歩を刻むのか。その答えの一端は、春の鈴鹿で示されるに違いない。


ABOUT CAR

Mercedes-AMG F1 W17 E Performance

Mercedes-AMG PETRONAS F1が、2026シーズンを戦う最新マシン。大幅に改定されたパワーユニットおよびシャシー規定に対応し、電動出力の強化と高効率なエアロダイナミクスを両立する設計が特徴だ。軽量化やエネルギーマネジメント性能の向上が図られ、悲願のタイトル奪還を目指す次世代マシンとして大きな期待を背負っている。
Mercedes-AMG F1 W17 E Performance