世界でリリースされた台数はなんと20台のみ! モータースポーツの真の愛好家がサーキット走行を楽しむために開発された「Mercedes-AMG GT2 PRO」。このエクスクルーシブ・モデルのオーナーだけが参加できるMercedes-AMGのオフィシャル・レーシングクラブが、「Elite Racing Circle(ERC)」だ。世界各地の名だたるサーキットを走行体験するこの特別なプログラムが、7月に富士スピードウェイ、そして去る9月には伝説の耐久レース「鈴鹿1000㎞」と併催して鈴鹿サーキットで行われた。

words : Kazuhiro Nanyo


2025シーズンでスタートを切ったERC

初開催を1966年にまでさかのぼる鈴鹿1000㎞は、日本のモータースポーツ史において特別な伝統をもつレースイベントだ。過去には、全日本耐久選手権、FIA GTシリーズ、あるいはSUPER GTの一環として開催されてきた歴史を有する。2018年からはインターコンチネンタルGTチャレンジの日本ラウンドとして開催され、コロナ禍を発端に中断時期を挟んだものの、2025年シーズンから復活。実に第49回目の開催を迎え、去る9月12~14日にかけて行われた。

 

名実ともに日本を代表するこの耐久レースの決勝に先立って、鈴鹿サーキットのコース上で併催されたのが、Mercedes-AMGによる「Elite Racing Circle(以下ERC)」と呼ばれるプログラムだ。世界限定20台というスペシャルモデルである「Mercedes-AMG GT2 PRO」のオーナーのために用意された、「超」がつくほどハイエンドでエクスクルーシブなサーキット走行体験である。


世界の伝説的サーキットを走行

ではMercedes-AMG GT2 PROとはいかなるマシンであり、そしてERCはどのような経緯で誕生したのだろうか? 9月の鈴鹿に先立って、7月のGTワールドチャレンジ・アジア(富士スピードウェイ)でERCを初開催し、自らもステアリングを握ったMercedes-AMG Motorsport代表、クリストフ・サゲミュラーは次のように説明する。

「以前から、サーキットで公式レースを走るカスタマーレーシングだけでなく、VIP向けのトラックデー・フォーマットの需要が世界的に高まっていることは認識していました。そこでエクスクルーシブなクラブという形で実現することを思いつき、我々のファクトリーチームであるGruppeM Racingとともに、Mercedes-AMGのオフィシャル・レーシングクラブとしてERCを創設したのです。もちろんMercedes-AMG GT2 PROが、このコンセプトを実現する強固なベースとなったことはいうまでもありません」

 

すでにモータースポーツ経験を豊富に重ねた愛好家を対象とし、限られたメンバーだけに認められるレーシングクラブ的なプログラムはこれまでにも数多く存在してきた。ERCは、それら既存のレーシングクラブとどう異なるのか。

「Mercedes-AMG GT2 PROは世界でたった20台という希少さで、購入者は自動的にERCのメンバーとなります。この特別なクラブに入る資格を得られるかどうかは、Mercedes-AMG GT2 PROをドライブしたい、所有したいという情熱はもちろんのこと、GruppeM RacingとMercedes-AMG Motorsportの判断によるところもあります。しかし、ひと度メンバーとなれば、世界で名の知れた伝説的なサーキット──日本でいえば鈴鹿サーキットや富士スピードウェイですね──そうした名コースを愛車のGT2 PROで走行するエクスクルーシブな体験や、ハイレベルなライフスタイルイベントを楽しむことができるのです」


プロレーサーと同等の環境を用意

ERCはGTワールドチャレンジ・アジアやインターコンチネンタルGTチャレンジの主催団体であるSRO(ステファン・ラテル・オーガナイゼーション)をはじめとしたプロモーターと提携している。それゆえに、鈴鹿サーキットや富士スピードウェイで行われる国際的なビッグイベントにおいて、メンバーが走れる時間枠を確保しているのみならず、プロレーサーと同等の環境で車両メンテナンスやピットワークのサービスを受けることができる。また、Mercedes-AMGのドライバーによる個別コーチや、エンジニアによる解析ブリーフィングの機会なども準備されているのである。

 

「GTカーのレースだけではなく、同じく9月にはF1イタリアGP開催中のモンツァで、『Mercedes-AMG GT2 Edition W16』のお披露目イベントも行い、ERCのメンバー全員を招待しました。また、これからもハイエンドな各種カスタマー・プログラムへのアクセスも提供できるよう計画を進めているところです」

モータースポーツを楽しむ──。観戦や他のメンバーとの社交はもちろんだが、実際のトラックを専用のフルサポートを受けながらエクスクルーシブな枠組みで走れること。そんな包括的でスペシャルなプログラムが、このERCなのである。

 

「ERCのモットーは“アライブ&ドライブ(Arrive & Drive)”。想像可能な限りハイレベルでオールインワンのパッケージを用意しています。オーナーは週末用のトラベルバッグに着替えだけ携えて、サーキットにやって来ればOK。走行に必要な装備とケアは、我々がすべて用意します」

「レーシング・ギアはすべて、メンバーひとり一人のためにテイラーメイドされ、車両デザインに合わせて誂えたものになります。そしてもちろん、Mercedes-AMGのプロドライバーから個別コーチを受けられますし、サーキット内には専用のホスピタリティが設けられ、ラグジュアリーなアメニティや趣向を凝らしたディナーを楽しめます。すべてがエクスクルーシブで、同伴されるご家族も思う存分楽しむことができます」


比類なきパワーと安全性

Mercedes-AMG GT2 PROは、レーシングカーとしての認証(ホモロゲーション)こそ受けていないものの、クローズドサーキット用の車両として世界でもっともパワフルな1台といえる。サーキットでハイパワーカーを操るという、特別な感覚や経験をさらに高みで昇華させるため、Mercedes-AMG GT2 PROにはどのような特長が与えられたのか、サゲミュラー代表はこう答えた。

 

「例えば、“Push2Pass”。ステアリングホイールにあるそのボタンを押すと、一定時間だけGT2 PROの4.0リッター V8ツインターボ・ユニットが、ベースの707hpから750hpまでフルポテンシャルを解放します。直線でのオーバーテイクを容易にし、トップスピードもそれまで以上の領域に達することになります」

 

「さらには、優れたハンドリング、直感的な操作性など極めて高度な安全性能を備えています。この特別な車両の狙いとは、モータースポーツの愛好家の方々が従来と次元の異なるハイパフォーマンス領域へとステップアップし、習熟していくことをサポートする仕様であること。ですから他にも、専用にデザインされた翼端形状をもつリアウイング、我々が“CUBE CONTROLS”と呼ぶミニマムにして機能的なステアリングホイール、操作系ボタンをひとつひとつ色分けしたセンターコンソールなどがその大きな特長といえます」


素晴らしいスタートを切ったERC

2025シーズンに記念すべきローンチを果たしたERCだが、富士、鈴鹿でのプログラムに参加したメンバーたちからのフィードバックは、とてもポジティブなものだったと、サゲミュラー代表は笑みを浮かべる。そして自身もハンドルを握ってサーキットを堪能したと明かす。

 

「まだERCのプログラムは始まったばかりですが、7月のGTワールドチャレンジ・アジアが開かれた富士スピードウェイも、久々の1000㎞レースが行われた鈴鹿サーキットも、モータースポーツ史上で有数の世界的に知られたサーキットです」

「ですからERCの初シーズンの2回を、富士と鈴鹿で開催できたこと自体が、とても素晴らしいことだと捉えています。私自身、富士スピードウェイをERCのメンバーに交じって初めて走ったのですが、非常にハイスピードかつテクニカルなコースで驚くべき体験でした!」


2026年は5回のイベントを計画中

そしてインタビューの最後に、気になる今後のERCの展開について訊ねてみた。

「2026年はERCにとって初のフルシーズン。年間5回のイベントを計画しており、アジアが2回、欧州も2回、そしてアメリカで1回行う予定です。最終的なカレンダーは間もなく、メンバーたちに共有されることになるでしょう。長期的には我々はERCを、Mercedes-AMGの クラブレーシング部門のもっともハイエンドな形態として確立したいと考えています」

 

プロドライバーやエンジニアたちのアドバイスを受けながら、安全かつ確実にMercedes-AMG GT2 PROのパフォーマンスを解き放つ、究極にしてイマーシブな走行体験を提供するERC。2026シーズン以降の発展からも目が離せない。

Mercedes-AMG GT2 PRO

707馬力を誇る4.0リッターV8ツインターボを搭載したサーキット専用マシン。軽量カーボンボディや大型リアウィングにより高い空力性能を発揮し、「Push2Pass」機能で瞬時に750hpまでパワーアップすることができる。プライベートユーザーも極限のレーシング体験を楽しめる究極のトラックデーカーとして世界限定20台でリリースされた。
Mercedes-AMG GT2 PRO


Mercedes-AMGとは

自動車界における最高性能の象徴であり、半世紀以上にわたって唯一無二のドライビングプレジャーを提供し続けてきたMercedes-AMG。ひと目でそれと分かる特徴的なエンブレムには、AMG創業の地であるアファルターバッハの「川」と「リンゴの木」、エンジン開発の卓越した技術力を表現する「カムシャフト」と「バルブ」、さらにはモーターレースにおける覇者としての存在を象徴する「月桂樹」がデザインされている。

 

※ 車両の仕様・装備は、撮影時点の仕様であり、日本仕様と異なる場合があります。