創業以来、クルマ作りへの情熱と先進技術の研究開発を追求してきたメルセデス・ベンツ。その飽くなき姿勢が、世代を超えて記憶に残るアイコンを次々と生み出し、現代にいたるまで自動車ブランドとして卓越したステータスを築き上げてきた。その記憶を「Mercedes-Benz Magazine」編集長のヘンドリック・レイクバーグが綴る。

※ 本記事の内容はMercedes-Benz AG社発行の「Mercedes-Benz Magazine」の翻訳となります。

Words: Hendrik Lakeberg

世界のセレブも愛して止まない

世界的建築家であるノーマン・フォスターは「300 SL ガルウイング」を彫刻と対峙する作品としてとらえ、またラップ界のスター、トラヴィス・スコットは自身のメルセデス・ベンツ愛を楽曲にして捧げています。

そう、メルセデス・ベンツは、革新的な車両を次々と生み出してきただけでなく、各時代において非常にアイコニックなブランドイメージも築き上げてきたのです。単なる自動車ブランドが、いかにして世界を代表するカルチャーの一端を担うまでになったのでしょうか?その答えは、ブレることなく一貫して継続してきた“アプローチ”にあります。

はじまりは、私の幼少期の頃の思い出からです。当時の私はまだ幼く、1990年製の「メルセデス・ベンツ 200 E」の後部座席に座っていました。このクルマは子どもの私とほぼ同じ年齢で、祖父母が所有していたものです。車内に足を踏み入れると、その広さがまるで洞窟のように感じられたのを覚えています。

タクシー運転手であった祖父は、フランクフルト市内の中心部で客を乗せて指定された目的地へ運ぶことを生業としていました。祖父にとってその仕事は、日常の苦労をひと時でも忘れさせてくれる自由の象徴であり、まさに夢のような時間だったのです。

祖父母の市民農園へ向かうドライブは、いつもゆったりとしたペースで進みます。静かなエンジン音の一定のリズムが旅のBGMとなり、田舎道が広がる風景を沈みゆく夕陽が黄金色に染めています。

私は窓を開け、手に感じる風の中で波の形を描いて遊んでいました。子どもの私が座っていたレザーシートはどこかクールな印象ながら手触りは滑らかで、黒茶色の木材でできたダッシュボード、ラムスキン(子羊の皮)と明るい色の木製ビーズで作られたシートカバーなど、今でもそのイメージが鮮明に蘇ります。

この光景を思い出すと、ドイツ・ヘッセン州を走るA66 (高速道路)ではなく、太平洋の潮騒を聞きながらカリフォルニアをドライブしていたのではないかと錯覚することがあります。

もちろん、私の祖父母はヨーロッパの外へ足を踏み出したことがないので、これはありえない話です。しかし、夢の中であれば、自分の現在地を世界のどこにでも思い描くことができます。必要なのはインスピレーションなのです。

現在に至るまでメルセデス・ベンツは親しみやすい身近なブランドであると同時に、オーナーやその家族・友人を広大な世界へと導く存在でもあります。そして、私はこう思うのです。メルセデス・ベンツのクルマは、ドイツの田舎道でもアメリカのハイウェイ1号線でも、その風景に自然に溶け込む魅力と存在感を持っているのだと。

この事実はとても興味深いポイントだと思います。幼少期の特別な記憶によって単なる移動手段としてのクルマが、まだ見ぬ夢や願望、自由を体現する特別な乗り物へと進化したのです。私たちはただ、祖父母の愛する市民農園に向かっていただけでした。

このような想いを抱いているのは私だけではありません。幼少期から数十年が経過した今、世界中の何千、あるいは何十万人もの人々に同じような意識の変化が起きています。時代を象徴する記憶に根付いたカルチャーの変化ともいうべきものです。この経験は、過去 100 年近くにわたるメルセデス・ベンツの歴史を通して、ハンドルを握ってきたすべての世代を結び付けるものといえるでしょう。

アンディ・ウォーホルやノーマン・フォスターのような偉大なアーティストや建築家も同様に、美しい自動車の造形を絵画や彫刻と同一視し、メルセデス・ベンツのデザインや美学を自身の作品に取り込むことで、続く世代にとって不滅のアイコンとなる作品を作り上げたのです。

ファッションデザイナーとして多くの尊敬と称賛を集めたヴァージル・アブローは、幼い頃からヒップホップに影響を受け、Sクラスへの強い憧れを抱いていたそうです。それは、メルセデス・ベンツが人生の幸福や充足を象徴するという、名曲に描かれた世界に自分自身がいるような感覚を味わえたからかもしれません。

これらの記憶に共通するのは、クルマを単なる移動手段としてではなく、記憶や想いが詰まった文化的な象徴としてとらえている点です。この計り知れない潜在的価値は、たとえば1950年代のSLモデルがオークションで高額落札されるような形で目に見えることがあります。その金額が数百万ドルにもなると、多くの人にとっては全財産に匹敵するほどの金額です。こうしたコレクターたちがその価値を認める理由は、単なる希少性ではなく、ブランドへの深い愛といった象徴的な価値に裏付けられているからです。

革新性を追求するアイコン的ブランド

メルセデス・ベンツというブランドは、約1世紀にわたって並外れたカリスマ性を確立してきました。それは個人の経験や記憶を超越し、日常生活やポップカルチャーにおける普遍的なアイコンへと進化しています。さらに、国籍や社会的背景を超えて、複数の世代にわたって共有される人類の記憶として存在しています。このことはラップやヒップホップの楽曲で 約1万6000 回以上も歌詞に登場していることや、アート作品、書籍、テレビ番組、大ヒット映画などにもフィーチャーされている事実が証明しています。

メルセデス・ベンツは、絶え間ない革新と卓越した技術を追求するだけでなく、不動の文化的アイコンとしての地位を築き上げてきました。この2つの偉業は、ファンクラブや各種ウェブサイト、さまざまなイベントを通じて、オーナーやファンが示すメルセデスへの愛情にも表れています。また、メルセデス・ベンツ自身も、1920年代から時代精神を象徴するブランドとして、アイデンティティや個性、トレンドなどの要素を調和させることを目指してきました。その象徴的な歴史の一例が、ドイツ・シュトゥットガルトのヴァイセンホフ団地にあります。当時、先進的なビジョンを持つ建築家として名を馳せたル・コルビュジエが設計した建物の前で撮影された広告ポスターが、それを物語っています。

メルセデス・ベンツと女性モデルをフィーチャーしたこの一枚の写真には、パーソナルな思い出と世代を象徴するメルセデス・ブランドへの憧憬が融合され、日常と理想のイメージの両面を見事に結実しています。実際、現代においても安全性を重視するファミリーだけでなく、テック系愛好家、俳優、ファッションアイコン、Z 世代のインフルエンサーといった幅広い層に愛されているのがメルセデス・ベンツの特徴の一つです。

ブランドの重要性は、1926年の創業時から続く歴史とその間に築き上げられた世界観にあるといえるでしょう。それは信頼であり、安心感です。メルセデス・ベンツという企業は、長年にわたり一貫して培われてきたドイツのエンジニアリング、クオリティ、ラグジュアリーの代名詞となっています。つまり、一貫したブランド価値を維持するための継続的な革新が、世代を超える信頼と賞賛を生み出してきたのです。

ヴァイセンホフの広告ポスターからほぼ 1 世紀が経った今も、メルセデス・ベンツは時代の精神を体現する人々やブランドとのコラボレーションを重視しています。最近では「オフ-ホワイト」「モンクレール」「sacai」「ヘロン・プレストン」とのプロジェクトが好例です。また、メルセデス・ベンツをフィーチャーした映画や人気テレビシリーズもそうです。

2024年初めにロサンゼルスでフル電動化した「G 580 with EQ Technology」のワールドプレミアが行われ、ブラッドリー・クーパーやトラヴィス・スコットなどのスターがこのクルマのルーフ上で披露した感動的なパフォーマンスを思い起こす読者もいるかもしれません。これらはまさに、メルセデス・ベンツというブランドをさらに魅力的な存在へと昇華させ、象徴的なステータスをより強固にする役割を果たしているのです。

単なる移動手段を超越する存在

しかし、オーナーやファンの愛と情熱を勝ち取ることができなければ、これらのマーケティング施策も無用の長物となってしまいます。顧客の高い期待に応えるだけでなく、それを超える継続的な取り組みを続けるメルセデス・ベンツは、この点をなによりも重要視しています。

メルセデス・ベンツのオーナーにとって、クルマは単なる移動手段ではなく、自宅のような安らぎの空間であり、日常の喧騒から解放される癒しの場でもあります。慣れ親しんだ環境の快適さに加え、自由と安全を提供してくれる存在なのです。人生のさまざまな瞬間に寄り添うメルセデス・ベンツは私たちの日常に溶け込みながら、実体験を通してオーナーとの絆を深めていきます。やがてその存在は、時代を象徴する文化の一部へと昇華されていくのです。

生涯を貫くメルセデス愛

メルセデス・ベンツはまさに人々の理想を体現するブランドといえるでしょう。多くの人にとって、それは幼い頃に芽生え、生涯を通じて追い続ける夢の象徴です。小さな夢がやがて大きな夢へと広がり、さらに子ども時代の体験がポップソングのインスピレーションとなり、その曲が何百万人ものリスナーに届くこともあるのです。

また、メルセデス・ベンツはポップカルチャーのアイコンや映画、テレビシリーズなどの第3者を通じてのみならず、何よりも自らの努力で文化的アイコンとしての立場を確立してきました。その努力とは、車両を開発する際に細部まで妥協しないクルマ作りへの飽くなき追求です。そして、それを支えているのは揺るぎない情熱です。

いつの時もベストなソリューションを追い求める────。その姿勢こそ、メルセデス・ベンツが開発する車両が、単なるデザインとテクノロジーの融合を超えた存在価値を持つ理由です。そしてそのクルマはやがてオーナーの生き方、感情、パーソナルな思い出の一部となるのです。メルセデス・ベンツが生み出してきた車両すべてに、数え切れないほどの旅と冒険の物語が刻まれています。 

「旅はご褒美」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。この表現が最もふさわしいのは、メルセデス・ベンツではないでしょうか。旅の目的地は自分で決めるものですが、メルセデス・ベンツはその旅路をスムーズに、そして快適に実現してくれます。そのおかげで、将来何度も思い返すことになるような、インスピレーションに満ちた思い出づくりの一端を担ってくれるのです。

もしかしたら、どこかの子どもが祖父母のメルセデス・ベンツに乗って、Burmester®3Dサラウンドサウンドシステムでおじいちゃんのお気に入りの曲を聴いているかもしれません。ジャニス・ジョプリンの独特な歌声に心を奪われ、ハイパースクリーンに映し出されたレコードジャケットの画像が、その子どもの記憶に深く刻まれることでしょう。その記憶が、やがて次世代を代表するポップカルチャーの新たな原点を生み出すかもしれません。

ABOUT THE AUTHOR

「Mercedes-Benz Magazine」の編集長を務めるヘンドリック・レイクバーグは、2018年よりメルセデス・ベンツ・ブランドを彩る多様なカルチャーをインスピレーションに企画制作、執筆活動を行っている。

※ 車両の仕様・装備は、撮影時点の仕様であり、日本仕様と異なる場合があります。