インディ系からトップミュージシャンまでジャンルを問わず、圧倒的な世界観のミュージックビデオをつくりあげる映像作家、Spikey Johnさんが、Mercedes-AMG SLを“主人公”とした最新動画を制作。その舞台裏について訊いた。
*動画は記事の最後でご覧いただけます。
photos: Hideaki Nagata
words: Go Kato
SLの青いボディがインスピレーション
無機質なコンクリート剥き出しの地下駐車場。天井には6本の蛍光灯ライトが規則的に配列され、その光が照らす先にはハイパーブルーのボディカラーをまとった「Mercedes-AMG SL」が鎮座する。エンジンに命が吹き込まれ、LEDヘッドライトに光が灯ると、続いてスリーポインテッドスターのエンブレム、フロントのルックを支配するAMG専用グリルをカメラがとらえる──。
そんなオープニングで始まるメルセデス・ベンツの最新ムービーを手がけたのは、圧倒的な映像美と洗練された世界観のミュージックビデオで知られる映像作家、Spikey Johnさん。ストリート感抜群のフリースタイルを自身の “言語”とした作風が特徴だ。日本の第一線をいくアーティストとコラボした映像作品でも知られ、現在、注目される映像クリエイターの一人である。
これまでクルマを撮影に使用する機会があったとしても、ミュージックビデオのメインであるアーティストやラッパーがハンドルを握るシーンがほとんどで、「実は、クルマそのものが主人公となる撮影は今回が初めてなんです。とても新鮮でしたね」というSpikey Johnさん。本番の撮影に先立ち、下見に訪れたメルセデス・ベンツ・ジャパン本社で邂逅したSLについて訊くと、「なんといっても(ボディの)青がすごかった」と間髪置かず、第一印象に関する即答が返ってきた。
「普段の生活で使うクルマというよりは、日常から離れた瞬間を求める時に乗るクルマだな、と目にした瞬間思いました。(下見は2度にわたって行い)陽が落ちた夜の時間帯にSLを見る機会があったのですが、薄暗い空間でその青いボディに光が反射したときの質感がとても印象的だったので、その場で、映像のコンセプトもダークな方向に振ることで固まりました。 あの存在感なければ、夜をイメージした動画として成立させるのは難しかったと思います。そこは間違いなく、SLがもつポテンシャルの高さですね」とSpikey Johnさん。
そのSLは、世界3大レースの一つ、ルマン24時間レースでワンツー・フィニッシュを飾るなど、世界各地のレースで輝かしい戦績を重ねた「300 SL」(W194)をベースに発売されたモデルを初代にもつ。誕生から 70 年を迎えた現行モデルは、F1由来のテクノロジーを搭載し、抜群の走行性能とドライバビリティを備えている。
“洗練を極めたカッコ良さ”の追求
10代の頃から興味関心の赴くままにフリースタイルでミュージックビデオの制作を始め、現在では、インディ系から誰もがその名を知るメジャーアーティストまで、ジャンル横断的に制作活動を続けるSpikey Johnさん。映像ディレクターとして自身が掲げる哲学について訊いてみると──。
「自分の中の意識として、『Spikey John』という名前で活動しているので、平均化されたものではなく、『人とは異なる』『どこかちょっと浮いている』という存在でいたいなと思っています。その浮き方も、“洗練を極めたカッコ良さ”を目指していきたいです」
「それは僕の中ではメルセデス・ベンツとつながる部分もあります、例えば、いろいろなメーカーのクルマがずらっと並んでいるなかで、 メルセデスが洗練とクールの象徴として際立つのと同じ感覚です。映像クリエイターが世の中にたくさんいるなかで、自分として心に刻んでおきたい精神性のようなものですね」
Spikey Johnさんは、ミュージックビデオとは、楽曲に付録としてついてくる“おまけ的存在”ではなく、音楽と映像の双方を同時に体感することで、その曲をとらえる感覚や音楽体験そのものが、視聴前とは一変するようなものであるべきと主張する。その真摯なアプローチとは、視聴者である我われが気づきもしなかった異なる視点(パースペクティブ)を提案する映像づくりの一環ともいえるだろう。
「ミュージックビデオを作るうえで、僕自身は、『この音楽には、こういう光が合う』または『こういう色が合う』といった個人の感覚を表現するよう心がけています」
「普段から音楽を作ったり、深く接している人たちと比較して、カジュアルな音楽ファンの場合、メロディーの部分しか聞いてないということも少なくありません。でも例えば、実はここのパートはドラムが『ものすごくカッコよくて、一番の見せ場なんだ』ということを僕がつくるミュージックビデオを見ることで気づき、知る人がいる。またはそういった気づきをサポートする──。 そういった映像の方が、ミュージックビデオとしては見応えがあると思います。ものすごくこだわった撮影方法より、もっとそういった、ともすると聞こえていない、気づいていない部分にフォーカスするのが自分のスタイルなのです」
まさかの雨で撮影プランを変更
定番やありきたりではなく、Spikey Johnさん独自の視点・解釈を作品のなかに提示することで、観る者に新たな気づきを与える──。まさにそのスタイルが注ぎ込まれたのが今回のSLのムービーといえるだろう。
下見で訪れた夜に衝撃を受けた青いボディを、ボンネット、フロントフェンダー、ホイール、ヘッドライトと大胆に寄り切ったカメラワークで切り取り、小気味の良いエディティングで首都高のトンネルを駆け抜ける走行シーンへとつなげていく。SLの全容の描写をあえて抑えることで、観る側の想像力を掻き立て、またSLに対するSpikey Johnさんならではの新たな視点を提示しようとしている。まさにミュージックビデオ制作に対するアプローチとシンクロしていることがわかる。
暗闇と人工的なライト、そしてハイパーブルーのカラーをまとったボディの存在が、ミニマルかつ高度な洗練さをもってまとめ上げられた今回のムービー。しかし、撮影当日は、天気予報にまったくなかったまさかの雨に見まわれ、綿密にまとめあげた事前の撮影プランをすべて現場で再構成しなくてはならない事態に陥ったのである。
「最初の地下駐車場の撮影を終えて外に出たら、急にポツポツ(雨が降って)きて。『どうせ止むだろう』と思っていたのですが、撮影が進むにつれて激しくなる一方でした。 最初は雨のおかげで街にツヤが出るし、行けるかな、と思ったのですが、水しぶきが想像以上で断念しました」
「そこで急きょプランを変更。はじめに撮影した駐車場も地下なので、(走りの撮影も)トンネルだけに限定し、あえて閉じられた空間のなかで映像を完結させるコンセプトに変換しました。さらに、地下駐車場ではクルマとライトしかない世界観だったので、トンネル内の走行シーンも同じようにクルマとライトだけの構成にし、前半は“静止したライト”で、後半はボディにリフレクションする“動くライト”の要素で構成しています」
音楽のインスピレーションは「最善か無か」
Spikey Johnさんの世界観が詰まった映像もさることながら、今回は、音楽も同様のインパクトをもってスクリーンから迫りくる迫力を湛えている。実はこの音楽も完全オリジナルで、Spikey Johnさんが「もっとも信頼しているアーティストの一人」と呼び、長年のコラボレーターであるDJ UPPERCUTさん(下写真)が手がけている。そのDJ UPPERCUTさんに、今回のインスピレーションの源について訊いてみると、メルセデス・ベンツの創業者、ゴットリーブ・ダイムラーのモットーである「最善か無か」がその土台にあるという答えが返ってきた。
「実際に、僕もクルマを見に行って、試乗してみたのですが、いうまでもなくラグジュアリーで、ものすごい高級感を備えた1台である一方、(サーキット走行用の)『レースモード』など“遊び”の要素が随所に反映されていることも知りました。この経験から、音楽も迷うことなく振り切ったものをつくろうと決めたのです」とDJ UPPERCUTさん。
「あっちも、こっちも、とある意味“美味しい”部分を欲張ってすべて入れ込もうとするのではなく、限りなくミニマルではあるけれど、同時に遊び心がある音楽を目指しました。ここでいう遊び心とは、エンジン音を低音のコントラバスで表現したり、同様に、トンネルを駆け抜けていく伸びやかな走行シーンを和太鼓やリバーブで表現したりと、曲全体はミニマルな方向性を志向しながらも、そこ(曲の構成要素)に多くのバリエーションを見出せる構成に仕上げたのです」
映像と音楽の相乗効果
予想だにしなかった天候不良とはいえ、「かっこいいカットはたくさん撮れました」と振り返るSpikey Johnさん。しかしリアルな制作作業は、撮影現場ではなく、試行錯誤の編集が待つスタジオからスタートするといっても過言ではない。
「選びきれないほどのカット数から本当に必要なものをシビアに抽出し、カットとカットのつながりをまるでパズルのように組み合わせてはバラして、また別の組み合わせをトライするプロセスを──(映像の)引きと寄りだったり、全体のリズムだったりも考慮しながら──何度も、何度も繰り返しました」
「車体との距離感も、ボディ全体を常に見せる方向性ではなく、ディテールカットや雰囲気のある照明のカットをあえて混ぜ込んでいくことで、無機質でありながら、非常に洗練された世界観をつくりあげることができたと思います」
こうして、尺としては40秒ほどと非常に短編ながら、計算し尽くされた映像と美しくも遊び心に富んだ音楽の相乗効果で、Mercedes-AMG SLの世界観を体現する新たな動画作品が完成したのである。
Mercedes-AMG SL × Spikey John
ABOUT CAR
Mercedes-AMG SL 63 S E PERFORMANCE
AMG パフォーマンス4MATIC+(連続トルク可変配分式四輪駆動)とAMG ACTIVE RIDE CONTROLサスペンションが高次元のハンドリングと快適性を両立する。
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PROFILE
Spikey John
映像作家。GROUNDRIDDIM所属。SPIKEY JOHN RECORDS主宰。
https://spikeyjohn.com/
https://groundriddim.com/
[受賞歴]
Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2023 選出
SPACE SHOWER MUSIC VIDEO AWARDS 2022
BEST VIDEO DIRECTOR
GOLDEN AWARD OF MONTREUX 2020
DIGITAL/INTERACTIVE - ONLINE VIDEO
Gold Medal
※ 車両の仕様・装備は、撮影時点の仕様であり、日本仕様と異なる場合があります。